ちて、力なく地べたに倒れた。
四
幾年かして、欣之介の仕事はやはり一向いゝ成績をあげ得なかつた。
ある夜、彼は父の部屋へ呼ばれて行つた。そして、そこから長いこと出て来なかつた。部屋の戸を締め切つて、父と子とは、夜が更《ふ》けて家の人がみんな寝静まつた後まで、何やら頻《しき》りに話し合つてゐた。
それから一ヶ月ばかりして、林檎林で、十数年|前《ぜん》の最初の犂返《すきか》へしの日以来見たことのない賑《にぎ》やかな騒ぎが初まつた。二十人ばかりの日傭人《ひやとひにん》がそこへ入りこんで、林檎や葡萄や実桜《さくらんぼ》の樹《き》を片つぱしから伐《き》り倒してゐるのだ。樹は何《いづ》れも衰へて痩《や》せてゐたが、まだ枯れては居なかつた。幹に鋸《のこぎり》を入れてゴリ/\やる度び、それにつれて梢《こずえ》の方で落ち残つてゐる紅葉した葉がカサ/\と鳴つた。そして、今切離されたばかりの生々しい傷口を持つた切株は一つ/\、自分の場所から退去されるのを拒みでもするかのやうに、それを掘り抜くのにひどく骨を折らせた。しかし、三四日するうちに、そこには何もなくなり真裸《まるはだか》な、穴
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