に現住の小林榮さんである。その小林翁に招かれて野口の生家を訪うたのは九月二十四日の旗日であつた。
 驛につくと小林翁が同志數人と共に迎へてくれる、乘車して五分ばかりすると古城(名の通り城跡のある所)の翁の家に着き、在アメリカの野口未亡人メリイさんから送り屆けられた[#「送り屆けられた」は底本では「送り屈けられた」]一切の記念品を見せて頂いた。『世界人の横顏』にある自畫像原物がある、同じく野口の描いたメリイ夫人の像がある、又いろ/\のスケツチがある。エクアドル國から贈られた軍醫監の禮服と通常軍服、軍劍軍帽がある、日常身につけた幾通りかの衣服、シヤツ等がある。歐米諸國から寄贈の學位記、表徳記、推戴記等は無數にある。これ等は他日野口記念館を建てゝ永久に保存し、世界觀光團の巡禮所の一としたいと思ふ。美しい猪苗代湖は『野口英世その湖畔に生る』で世界に知らるゝ時が來ないとは限らぬ。
 小林翁は野口の少年時代から涙ぐまるゝ純眞の愛で、この不具の極貧兒を世界の大學者たらしめ、日本の光榮たらしめた恩人の一人である。アメリカ渡航の熱情が火の如く燃えたが、家族への心配が當然に念頭を離れぬので煩悶にたへなかつ
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