らか。

涙にあまる思[#「思」に「(二)」の注記]とは
歌ふをきゝぬ野路の花、
荒磯蔭のうつせ貝
聲なきものを何人か
海のしらべをこゝろねを
其一片に聞き[#「聞き」に「(三)」の注記]にけむ。

たかねの崖に花にほひ
情波の淵に歌は湧く、
無象を聲に替ふるてふ
君が心耳《しんに》のきくところ
空のいかづち何をつげ
夜半のこがらし何を説く。

夜半のこがらし何を説く、
「眠」の如く「死」の如く
やさしき鳩の羽《はね》たゆく
ゆふべの空に下《お》るごとく
詩神の魂《たま》の降り來て
君が心をみたすとき。

夜の薫りの高うして
天地しづかに夢に入る
うちに聲なく言葉なく
またゝく窓のともしびに
風の姿を眺めては
思はいかに君が身の。

心の窓も押しあけて
眺むる空に流れくる
星の行衞はいづくぞや
清きアボン[#「アボン」に「(四)」の注記]の岸のへか
咲くタスカン[#「タスカン」に「(五)」の注記]の花の野か
それワイマア[#「ワイマア」に「(六)」の注記]の森蔭か。

北斗は遠し影高し
望の光り愛の色
かれにもしるき參宿[#「參宿」に「(七)」の注記]の
もなかにひかりかゞやきて
(か
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