も
曳くやもすその紅に
詩神の影を君見るや。
「泉のほとり森のかげ
光てりそふ岡[#「岡」に「(一)」の注記]」のみか
あしたの風の吹くところ
ゆふべの雲のゐるところ
露のしづくのふるところ
いづくか歌のなからめや。
流るゝ水のゆくところ
きらめく星のてるところ
緑の草の生ふところ
鷲の翼を振るところ
獅子のあらしに呼ぶところ
いづくか歌のなからめや。
春は吉野のあさぼらけ
こむる霞のくれなゐも
遠目は紛ふ花の峯
夏はラインの夕まぐれ
流は遠く水清く
映るも岸の深みどり
汨羅の淵のさゞれなみ
巫山の雲は消えぬれど
猶搖落の秋の聲
潮も氷る北洋の
巖を照らすくれなゐは
光しづまぬ夜半の日か。
路に斃れしカラバンの
枯骨碎けて塵となり
魂《たま》啾々の恨さへ
あらしにまじる大砂漠
もの皆滅ぶ空劫の
面影君はこゝに見む。
黒雲高くおほ空の
照る日の影を呑みけして
紅蓮の焔すさまじく
巖も熔くる火のみ山
あめつちわかぬ渾沌の
おもかげ君はこゝに見む。
まぼろし追うてくたびれて
しばし野末の假のやど
結ぶや君よ何の夢
さむれば赤したなごゝろ
あたりの風を匂はして
笑むはやさしの花ば
前へ
次へ
全54ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
土井 晩翠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング