テに迷ふかかりがねは
令《れい》風霜の威もすごく
守るとりでの垣の外。
* * *
丞相病あつかりき。
帳中眠かすかにて
短檠光薄ければ
こゝにも見ゆる秋の色
銀甲堅くよろへども
見よや侍衞の面かげに
無限の愁溢るゝを。
* * *
丞相病あつかりき。
風塵遠し三尺の
劔は光曇らねど
秋に傷めば松栢の
色もおのづとうつろふを
漢騎十萬今さらに
見るや故郷の夢いかに。
* * *
丞相病あつかりき。
夢寐に忘れぬ君王の
いまはの御《み》こと畏みて
心を焦がし身をつくす
暴露のつとめ幾とせか
今|落葉《らくえふ》の雨の音
大樹ひとたび倒れなば
漢室の運はたいかに。
* * *
丞相病あつかりき。
四海の波瀾收まらで
民は苦み天は泣き
いつかは見なん太平の
心のどけき春の夢
群雄立てこと/″\く
中原鹿を爭ふも
たれか王者の師を學ぶ。
* * *
丞相病篤かりき。
末は黄河の水濁る
三代の源《げん》遠くして
伊周の跡は今いづこ、
道は衰へ文弊ぶれ
管仲去りて九百年
樂毅滅びて四百年
誰か王者の治を思ふ。
* * *
丞相病篤かりき。
(二)[#「(二
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