b黷ノけり
今は下界も聖からむ。
東の空を昇り來る
星また星に聲も無し
西の空行き沈み行く
星また星に思あり。
消えては凝ほる千萬の
露のしづくに光あり
凝りては消ゆる干萬の
しづくの露に心あり。
時に微風の一そよぎ
知らず過ぎ行くたが魂か
時に流るゝ星いくつ
知らず落ち來る何の魂。
あゝ靜かなる夜の色
浮世の夢をさめいでゝ
なが永劫のふところに
憂の子らを入らしめよ。
哀樂
月ほのじろう森黒く
あらし睡れるさよ中に
下界離るゝ魂二つ、
ひとつの聲はさゝやきぬ
「樂しかりけり世の夢は」
ほかなる聲はつぶやきぬ
「哀しかりけりわが夢は」
嗚呼樂みか哀みか
もゝ年足らぬ夢の世の
差別《けじめ》は何のわざならむ、
仰げば星はまたゝきぬ
月ほのじろう森黒く
あらし睡れるさよなかに
下界はなるゝ魂二つ。
星落秋風五丈原
(一)[#「(一)」は縦中横]
祁山悲秋の風更けて
陣雲暗し五丈原
零露の文は繁くして
草枯れ馬は肥ゆれども
蜀軍の旗光無く
鼓角の音も今しづか。
* * *
丞相病篤かりき。
清渭の流れ水やせて
むせぶ非情の秋の聲
夜は關山の風泣いて
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