ウゝ川
流れ/\て行く水に
秋も近しと眺むれば
いかに惜まむあゝ夏よ。

  青葉城

秋はうつろふ樹々の色に
名のみなりけり青葉山
圖南の翼風弱く
恨は永く名は高き
君が城あと今いかに。

弦月落ちて宵暗の
星影凄し廣瀬川
恨むか咽ぶ音寒く
川波たちて小夜更けて
秋も流れむ水遠く。

別の袖に

別れの袖にふりかゝる
清き涙も乾くらむ
血汐も湧ける喜の
戀もいつしかさめやせむ
物皆移り物替る
わが塵の世の夕まぐれ
仰げば高き大空に
無言の光星ひとつ。

  人の世に

梢離れて雪と散り
母なる土に還り行く
花のこゝろは誰か知る
散りなば散りね人の世に。

汀を洗ひ瀬に碎け
流れ/\て海に入る
水のこゝろは誰かしる
去りなば去りね人の世に。

きのふくれなゐ花の面
けふはたかしら霜の色
時のこゝろをたれかしる
移らば移れ人の世に。

かたみにしぼる憂なみだ
袖にいつしか乾くらむ
戀の心をたれかしる
替らば替れ人の世に。
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  紅葉青山水急流

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〔“Er ist dahin, der su:sse Glaube〕
An 
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