瘻垂ゥ。
我世の秋の寄するとき
紅にほふかんばせに
愛の光をかゞやかす
なれはのどけき春の日か。
我世のあらしあるゝ時
蕾とまがふ唇に
天女の歌を響かする
汝《な》はそれ生ける音樂か。
人のわびしく老ゆる時
こゝろときめく口づけに
若きいのちを吸はしむる
なれは盡きせぬとよみきか。
人の愁にしづむ時
息柔かくあたゝかく
樂土の風を匂はする
汝はとこしへの花の香か。
赤壁圖に題す
首陽の蕨手に握り
汨羅の水にいざ釣らむ
やめよ離騷の一悲曲
造化無盡の藏のうち
我に飛仙の術はあり。
五湖の烟波の蘭の楫
眺めは廣し風清し
きのふの非とは誰れかいふ
松菊《しようきく》庭にあるゝとも
浮世の酒もよからずや。
月《つき》江上の風の聲
むかしの修羅のをたけびの
かたみと殘る秋の夜や
輕きもうれし一葉《いちえふ》の
舟蓬莱にいざさらば。
夏の川
野薔薇にほひて露散りて
夕暮淋しいさゝ川
心の空に消殘る
昨日の春を忍ぶれば
いかに恨みむあゝ夏よ。
螢流れて水すみて
夕暮凉しいさゝ川
心の空の浮雲を
拂ふ凉かぜ音さえて
いかに戀せむあゝ夏よ。
漣織りて月照りて
夕暮たのしい
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