作である。私は十四五歳の頃、この譯詩を非常に愛讀した。そして親戚の庄司(當時駒場農學校生「わかもと」の澤田博士の友)が原詩を有したのを借りて來て覺束なくも讀んで見た、或は寧ろ(當時やつとABCを習つたばかりだから)眺めたといふ方が正しからう。西詩に對する私の愛好は多分これからであつただらう。
『ハムレツト』中の有名の獨語“To be or not to be……”の譯も詩抄中にあつた。――
『ながらうべきか但し又・ながらふべきに非るか・是が思案のしどころぞ……』途方も無い譯であるが、是に因て私は初めてシエイクスピヤの名を知つた。
 小學時代には父(擧芳と號した父)の感化で太閤記、八犬傳、三國志、水滸傳などを、又教科書としては、就中十八史略を愛讀したが、其後十八歳迄の獨學時代、竝に之に續く時代に影響を受けたものの中に、その頃創刊の「國民の友」又日刊の「自由の燈」がある。前者の明治二十二年の文學附録「おもかげ」などは最も好んで讀んだ。『みちのくの眞野の茅原遠けどもおもかげ[#「おもかげ」に傍点]にして見ゆとふものを』から題を取つたもの、落合直文、森林太郎(鴎外)等諸先生の西詩譯集である。後
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