坊ぞ(「取りも直さず」は「即ち」)泥坊元來不正なり・雲を霞と逃ぐるとも・早く繩綯ひ追ひ駈けて・縛せや縛せ犯罪人。』
 前の「新體詩抄」及び之から出發した竹内節の新體詩歌に歸るが、其中に井上博士はロングフエローの『|人生の歌《ゼサームオフライフ》』を譯した。此原詩は米國の少年達は皆悉く暗誦して居るだらう。日本の少年達もさうするがよい。靈魂不滅と敬神と發奮努力と希望とを歌つてゐる。後に相模の海岸で溺死した矢田部理學博士は尚今居士の號でグレイの『哀歌《エレヂイ》』を譯した。
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『山々かすみ入相の・鐘は鳴りつつ野の牛は・徐に歩み歸り行く・耕す人もうち疲れ・やうやく去りてわれ獨り・たそがれ時に殘りけり。』(首節)
『此處に生れてこゝに死に・都の春を知らざれば・其身は淨き蓮の花・思は澄める秋の月・實《げ》に厭ふべき世の塵の・心に染みしことぞなき』(十九節)
『これより外に此人の・善惡ともになほ深く・尋ぬるとても詮は無し・たましひ既に天に歸し・後の望を抱きつつ・神にまぢかく侍るなり』(終節)
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 恐らく當時第一の好譯詩であらう。曰ふ迄もなく原詩は不朽の傑
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