四月の「新體詩抄」であらう。東京帝國大學(當時唯一の帝大)の外山正一、矢田部良吉、井上哲次郎三博士の合編である。其第一頁は『ブルウムフヰールド氏兵士歸郷の詩』外山(ゝ山仙史)の譯、『凉しき風に吹かれつゝ……』である。
前記「國語と國文學」の井上先生の當時の追想談を讀むと、外山博士の熱心が窺はれる。今でも軍歌として時々ラヂオにも出て來る拔刀隊歌(明治十年西南役の歌)は其作である。『我は官軍我が敵は天地容れざる朝敵ぞ、敵の大將たる者は古今無双の英雄ぞ、之に從ふつわものは共に慓悍決死の士……』私は「東洋學藝雜誌」で初めて之を讀むだ(同誌に東京市の歌「あな變りたり武藏野や」といふのもあつたが誰れの作か覺えて居ない)。
其後又十餘年を過ぎて外山井上兩博士は共に明治廿八年初刊の「帝國文學」紙上に時々詩を發表した。『旅順の英雄可兒大尉』といふ散文詩(?)を外山博士は日清戰役時代に書いた。其頃皮肉屋の齋藤緑雨が、『新體詩見本』と題して外山、佐佐木(信綱)、與謝野鐵幹等諸家の口調を眞似て Parody を書いた。外山調に『火鉢の上に鐵瓶が・落ちて居るとて無斷にて・他人の物を持ち行くは・取りも直さず泥
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