音も今しづか、
丞相病篤かりき。
[#ここまで底本では上段]
[#ここから底本では下段]
上野の山に風あれて、
時雨降りしく動物園、
北海道の羆《ひぐま》さへ、
寒さに頸を縮むめり、
况して天竺熱帶の、
野山に育ちし動物が、
寒氣に得堪へでゆくりなく
健康傷るぞ是非もなき、
猩々病篤かりき。
[#ここまで底本では下段]
[#ここで字下げ終わり]
水哉君の此の名文(と曰ふてもよからう)――其終に象と虎の弔辭がある。『象は眞言宗と見えて、鼻の先に香を摘んで、香爐に不恰好に振り撒き、「象撒くサンザンだ(ノーマクサンマンダのもじり)ベーロシヤナア」と唱へて退く……虎は禪宗と見えて「南無迦羅タンノウ虎ヤー虎ヤー」(これでお仕舞)』と結んでゐる。
其後私は「曉鐘」「東海遊子吟」「曙光」「天馬の道に」「アジアに叫ぶ」譯詩としてはバイロンの「チヤイルド・ハロード」(全譯)などを出したが、世間一般は私を主として「天地有情」の作者と見なしてゐるらしい。こんなことを曰ふのは憚るべき次第かも知れぬが、「天馬の道に」を比較的善いものと自分では考へてゐる。世界大戰終了の後二年、一千九百二十年三月の出版、イ
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