ばかりに、遁《のが》れることも出来ない呪いの網にかかってしまったのだ。――ええ、そんな恐ろしい眼の色をせぬものよ――最前からまだ話もしなかったが、この鐘には、仔細《しさい》あって悪蛇の執念が久遠にかかっているのだ。その呪いでこれまでは作るのも作るのも、供養に一と打ちすると陶器《すえもの》のようにこわれてしまったのが、今夜ばかりはどうしてか、一つ一つに打ち出す呻き声がさっきのように谷底の小蛇の巣や蜘蛛の網にまでひびいて行ったのだから、ほんとにどのようなしかえし[#「しかえし」に傍点]が来ようも知れぬ、こんな益《やく》のない見張りをしているうちには、どこからか鱗《うろこ》の音を忍んで這い上って来るにちがいないのだ。
[#ここから2字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
妙信 (不安なる姿にて左右を顧※[#「目+乏」、25−上−1]しつつ鐘楼の石段に腰をおろして)さあ、このような恐ろしい晩に、黙っているのはよくないことだ。怪しい声音がいろいろのくらやみ[#「くらやみ」に傍点]から聞え出す、それにあの風の音よ。ここへ腰をおろして話でも始めないか。
前へ
次へ
全39ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
郡 虎彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング