方に走りてさしのぞき)もうあすこの大杉まで焼き倒れたのだ。血のしぶくように火の粉をちらした煙が渦をまいて、呻《うめ》きながら湧きのぼってくるわ。恐ろしい火の色が、まっ黒な木の間に姿をかくすかと思うと、もう破りさくように跳《おど》り出してわきへ追いかけて行く、ここから見ていると山中の木々が、泣きよばって逃げまどいながら、血煙の中に仆れるようだ。(僧徒らを顧みあららかに)だがみんなどうしようというのだ。こんなところにぐずぐずして生きながら灰になるのをまっているのかい。
妙信 和尚様、ほんとにどうなされたのでございます。このようなところにおいでになっては――
妙源 妙信――
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妙信と妙海とは、最前より同じき姿を保ちて佇立《ちょりつ》せる妙念の方を顧みつつも、妙源の後につづきて鐘楼を左折し去る。次第に赤き煙、濃くなりまさりて場に漲《みなぎ》る。ただ、血に彩らるることなくして蒼白く残りたりし妙念の面にも、かの仆れたる女人のしかばね[#「しかばね」に傍点]にも赤きいろは噛《か》み貪《むさぼ》るがごとくにじみつつ来るなり。
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