やありて最前の僧徒三人、上手の坂路より逃げまどえる哀れなる獣等のごとく走せ上り、依志子の仆《たお》れたるを見さらに驚けるさまなりしが怯《おび》えたる姿にて妙念の上手に立ち――
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妙信 和尚様、大事でございます。怪しい火《ほ》むらがお山を取り巻いて参りました。
妙海 風の勢いがはげしいので燃え上って来るのはすぐでございます、本門のところでも、山下の方にめらめらと焔《ほのお》が見えたと思いますうち、もう眼の前の空が真赤に映って来たのでございます。
妙信 所詮《しょせん》かなわぬまでも裏山の滝津の中へ身をひそめているより道はございませぬ、和尚様。大事でございます。
妙海 (いよいよいら立ちて)あの凄《すさ》まじい風の勢いが、山上《さんじょう》と山下《さんげ》から焔の波を渦まき返してあおり立てるのでございます。ほんとに手間を取ってはいられませぬ。あ、もうこんなに火の粉が飛んで参りました。
妙信 和尚様、どうなされたのでございます。そのうちには滝津まで降りる道さえふさがれてしまいます。和尚様。
妙源 や、あの音は、(上手の路の
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