や、女の姿が上って来る――
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他の僧徒らまた一顧するや怪しく叫び、期せずして相|捉《とら》う。たとえば恐怖の流れ狂僧の枯躯《こく》を繞《めぐ》り、歯がみして向うところを転ずるごとき、間。
妙念は立てるがままに息たえし死相のごとく、生色をひそめて凝立したりしが、ややありて引き抜かるるがごとく唐突に上手坂路の一角に走り、不安なる期待の間上りくる怪体を窺視《きし》せるや、たちまちにして疑惧を明らかにしたる表情にて。
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妙念 何だそこへかけてくるのは依志子じゃないか。どうしたのだ。
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依志子走り出づ。僧徒ら卑しき犬等のごとく視合《みあ》う。
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依志子 (歳三十に近く蒼白《そうはく》なる美貌《びぼう》。華《はな》やかならざれどもすずしきみどり[#「みどり」に傍点]色の、たとえば陰地に生《お》いたる草の葉のごとくなるに装いたり。妙念に縋《すが》り鐘楼に眼を定め息を切らしつつ)妙念様――鐘は、鐘はどのようでございます
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