ではございませぬ。私どもでございます。あなたのお身と同じこの山の僧徒たちでございます。
妙念 そんならなぜ物を言わないのだ。腐れたされこうべ[#「されこうべ」に傍点]のように首を並べて、慄えてばかりいるのは何だ。(間)僧徒たちの姿にのりうつって、この鐘へ取り付こうとするにちがいないわ。自分の名を称《とな》えて見ろ、一所に。
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            妙信――
三人の僧徒ら (斉《ひと》しく)妙海――
            妙源――
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三者同じき頭音はほとんど高低と不調となく、区々なる尾音おののき乱る。僧徒らみずから私に懐《いだ》きたる恐怖に、まのあたり面あえりしごとく、おのおの疑惧《ぎく》の眼を交う。間。
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     第四段

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風の声ようようはげしくなりまさりて、不断に梢《こずえ》を騒がす。僧徒らのうち左位に立てりし妙源は、この時みずから覚えざるがごとく身を退り、後の方坂路を顧みたるがあたかも何ものかを見出でて。
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妙源
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