(激しく語を迹りて)耳の迷いではございませぬ。ちょうど女人の髪の毛が笹の上を重く流れて行くようなものの音《ね》が、あの欅の根元からここの裾へかけて、三度ばかり聞えたのでございます。
妙念 (にわかに激しく)そこにいるのは誰だ。
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間。若僧は無言に妙念を視つめてあり。
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妙信 (何物かをおそるるがごとく)ゆうべ新入りの若僧でございます。
妙念 何しにこの山へはいって来たのだ。
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間。
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妙信 (若僧に向い)黙っていずと、お返事をせぬかい。
妙念 何しにこの山へはいって来たのだ。
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間。
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妙念 何しにこの山へはいって来たのだ。
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いと長き間。若僧の眼はようように鋭き凄色《せいしょく》を帯び、妙念は怪しき焔を吐くばかりの姿して次第に蹂《にじ》り迫る。さらに長き期待の堪うべからざるがごとき場《じょ
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