う》の緊張。
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妙念 (破るるがごとき憤怒《ふんぬ》の声)悪蛇の化性だな。そんな男体に姿をかえて上って来たのが、睫毛《まつげ》まで焼きちぢらした己の眼をくらませると思うのかい。このおおどかな梵音《ぼんおん》が山中をゆさぶって、木の根に巣をくう虫けらまで仏願に喰《く》い入るほども鳴りひびいたに、まだ執念《しゅうね》く呪いをかけようというのだな。――二つや三つの鐘を陶器《すえもの》のようにこわされても、そんなことで己の法力がゆるみはしないのだ。女鐘造り依志子の一念で、女人のたましい[#「たましい」に傍点]を千という数鋳込んだ鐘に、まじない[#「まじない」に傍点]ほどのひびでも入れて見い。ありがたい梵音が大空の月の壁から川床の小石までゆさぶるので、その身につけた鱗の皮が一つ一つ、はららけて落ちるまでおののき上って来たのだろう。――二十年が間呪いの執念のと小うるさく耳元にささやく声が、百足虫《むかで》のように頭の中を刺しまわって、何を見るにも血色の網からのぞくような気持だったが、今夜という今夜こそ、この鐘がなりひびいた祈誓の
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