でしまうのよ。するとまた、お互いに出し入れの息の音《ね》が、怪しい物の地《じ》をなめずる音《おと》のようにもきこえて来る、明るみが恐ろしさにあの藪《やぶ》の蔭《かげ》へ寄って行けば、何がひそんでいるかも見えぬ灰色のくらやみが、上から上から数知れぬ指を慄わしてざわめくじゃないか。その上に時々吹きあてる風の音が――
妙源 (最前より四辺を顧※[#「目+乏」、28−上−6]したりしが唐突に)そんな話はよさぬかい、やくたいもない。
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間。
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妙海 (また同じ調子をつづけて)言い合わしもせぬうちに、ここへ来れば和主《おぬし》がいると思って、二人とも黙ったままかけ上って来たのだが、ほんとにこんなところにいては考えにも及ばぬ恐ろしさだ。
妙信 山門の傍ばかりが恐ろしいにきまったことかい、何よりもこの鐘に悪霊の呪いがかかっているのじゃないか。こうしてまっ黒な口をあけながら物も言わぬ形を見ているうちには、さっきまでなりひびいた声より幾倍か恐ろしい邪婬の呻きが、煙のような渦をまいてあの洞《うつろ》からきこえてくるわ
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