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間。
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妙海 このような恐ろしい晩は聞きも知らぬ。またいつもと同じように一と打ちで微塵《みじん》にこわれてしまえばいいに、なまじあんないやらしい呻き声がひびき出したばかりよ。
妙信 さっきからわしもこの子に言うことだ。(間)だが月もあんなにまわって、だんだん夜あけ近くなって来たが、上って来ようというのならこの上時を移すまいぞ。
妙源 こんな風に怯《おび》えながら。甲斐《かい》のない見張りをしているうちには、もうとっくに上って、どこぞ雷にさかれた巌間《いわま》にでも潜んでいるか知れぬことだ。
妙信 (かすかに語調を失いて)いいや上って来たものなら、何よりも先この鐘に異変が見えねばならぬのだ。蛇体のままでか、それとも鬼女の姿になってか、一番にこの鐘へ取り付きに来ようわ。
妙源 それにしてもいま眼の前に姿が見えたらどうしようというのだ、誰ぞ退散の法力でも持っているのかい。和尚はあんなざまだしよ。
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間。四者のみずから知らざるがごとく相寄るは、水に沈み行く稀有《けう》なる群像
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