した。
妙信 心を落ちつけぬかよ、耳の迷いだ。
若僧 いいえ、か細い声でしたけれどたしかに、――ちょうど物怯《ものお》じした煙が木々の葉にかくれながらのぼってでも来るように、そこのくらやみ[#「くらやみ」に傍点]からきれぎれにきこえて来ましたのです。
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第二段
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若僧はもの言いもてなお下手に歩み出づる時、あわただしげに走《は》せ来たれる僧徒妙海と妙源とに行きあう。四者|佇立《ちょりつ》。
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妙源 (手に珠数を持たず、中年にして容姿ことごとく暴《あら》らかなり。若僧を直視するにある敵意を持ちたるが、妙信に向い)ゆうべの新入りだな。
妙信 (なお不安の姿にて)お前たちは山門の傍にいるはずなのじゃないか、何ぞの姿でも見えたというのか。
妙海 (同じく中年なれど凡常《よのつね》の容貌《ようぼう》を具え手には珠数を下げたり)まだわしらが眼には見えぬというだけのことだ。もう山中の露の色まで怪しい息にくもって来たわ。
妙信 そんなことならお前たちに聞こうまでもない。わしは
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