から、鐘の出来た夜は女人禁制という掟《おきて》になって、今夜このあたりにも姿を見せずにいるのだ。
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間。
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妙信 (若僧に向い)まあここへじっと坐っていないかというに。そのように物も言わず立っているのを見ると、和主《おぬし》の姿まで何ぞ怪しいもののように見えて来るわ。
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若僧は最前より妙信のものいえるを顧みざるがごとく、下手の方を眺《なが》めたりしが、この時|蹌踉《そうろう》としてたましい[#「たましい」に傍点]うつけたる姿に歩み出づ。
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妙信 (不安に目覚《めざ》めたるがごとく立ち上り)どうしたのだ、どこへ行こうというのだ。
若僧 (立ち止り同じ姿にて)何の声とも知れませぬ。あ、あのようにくり返して私の名を呼ぶのが、そこの谷からきこえてまいります――
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間。不安なる凝立。
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若僧 もう何にも聞えなくなってしまいま
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