ら出た煙のように慄えているのだ。
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間。僧徒らもの[#「もの」に傍点]いらえんとするも、舌|硬《こわ》ばりで能《あた》わざるがごとし。唖口の空《むな》しく動けるは死に行く魚等のさまに似たり。
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妙念 (いよいよ激して)なぜ黙っているのだ。己のものを言うのが聞えないというのか。
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再び同じき期待の緊張返り迫る。ただ僧徒らに何らの抗意なく、いたずらに戦慄《おのの》けるのみなると、さきには陰地《かげじ》に立てりし妙念の、今ところを異にして月色の中に輝けると異る。(並びに血のいろと)しかも場に溢れたる景調は、あたかも最前の恐るべき幻影をまた繰り返し見んとするがごときを思わしむ。同一なる恐怖の重複。
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妙念 (全く同一なる怒調)お前たちもやっぱり悪蛇の化性だな。そんなにいくつもの相《すがた》に分れて、この山へ這い上って来たのだな。
妙信 (糸に操《あやつ》られて物言うごとく声音ことごとく変じて)そのような恐ろしい者ではございませぬ。私どもでございます。あなたのお身と同じこの山の僧徒たちでございます。
妙念 そんならなぜ物を言わないのだ。腐れたされこうべ[#「されこうべ」に傍点]のように首を並べて、慄えてばかりいるのは何だ。(間)僧徒たちの姿にのりうつって、この鐘へ取り付こうとするにちがいないわ。自分の名を称《とな》えて見ろ、一所に。
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            妙信――
三人の僧徒ら (斉《ひと》しく)妙海――
            妙源――
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三者同じき頭音はほとんど高低と不調となく、区々なる尾音おののき乱る。僧徒らみずから私に懐《いだ》きたる恐怖に、まのあたり面あえりしごとく、おのおの疑惧《ぎく》の眼を交う。間。
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     第四段

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風の声ようようはげしくなりまさりて、不断に梢《こずえ》を騒がす。僧徒らのうち左位に立てりし妙源は、この時みずから覚えざるがごとく身を退り、後の方坂路を顧みたるがあたかも何ものかを見出でて。
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妙源
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