たのである。
文芸家協会といふものがある。そこで協会員に金を貸すと決めたことがある。ではといふので協会員が申し込んだ。なぜ借りるのかと事務所の役員が尋ねた。貸すといふから借りるんぢやないかと協会員達は答へた。
だがこれもずつとの昔のことである。いまの文芸家諸君は、論理よりも常識の方に親んでゐるから、あんな馬鹿げた問答もせず、あんな非常識な借り方もしようとはしないに違ひない。その頃にしても、仮りにも金銭の貸借だからといふので保証人を必要とした。が文芸家にとつては保証なぞは何でもない。判さへ押せばそれで済むことぢやないか。で誰でもが誰でもの保証をした。その結果は、甲が乙のために保証をすると同時に、乙が甲のために保証人となつて、極めて和やかに円満に事が運んだものなのである。お互ひに保証し合ふ。なんと見事な親和ではないか。一方が一方を保証しただけでは完全といはれまい。お互ひが信じ合ふといふところにすばらしい人生がある、すばらしい社会の調和がある。どうだ君、この金で一杯祝盃を挙げようぢやないかと、双方ともに重たくなつたポケットを叩いたものなのであつた。だがもうそんな時代は十八世紀よりももつ
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