貸家を探す話
高田保

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)ぐる/\
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 私はいま伊豆の温泉宿にゐて、のんびりした恰好で海を眺めてゐる。だが人間を恰好だけで判断するわけにはいかない。この私も実はのんびりどころか、屈托だらけなのである。海を眺めてゐるのは恰好だけで、私の眼は貸家札を探してゐるのである。
 今朝の都新聞を見ると、『読者と記者』といふ欄に、「この一月以来私は貸家探しをしてやつと見つかり五ヶ月ぶりにホッとした者だが」といふ書出しで、ある読者が苦情を並べてゐる。記者の方も同情して「大問題です」と答へてゐる。私もまたこゝのところずうつと貸家探しをしてゐる者だ。私の方はまだ見つからんのでホッとするまでにならない。そこで私は仕方なくこの温泉宿へやつて来たといふ次第だ。海を眺めながらも貸家札がといつたのは、つまり
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