からにすぎない。あゝ良識といふものさへが人間の装飾物となつてしまつたのだ。私は感慨居士だから、忽ちにして雑然といろ/\なことを思ひ浮べる。私は家の中へ入つた。木口がよろしい。古いがしかし木口がよろしい。古いからよろしいのかも知れぬ。新しい建築だつたらどこかにアメリカニズムの影響があらう。米国材といふやつはどう日本的に工作して見てもどこかで区別がつく。私の知つてゐるアメリカ人は、毎朝味噌汁を喜んでゐたが、しかしいつもその中へ一塊のバタを叩き込んでゐた。そしていつの場合でもおのれが女房に憚つてばかりゐた。その女房といふのは生枠の日本の女であつたのであるが。
便所は水洗式になつてゐる。あゝこのアメリカニズムだけはよろしい。しかし私は気に入つてしまつたのはそんなことではない。全体が二棟になつてゐて、しかも母家が平家で離家の方が二階であつたことだ。私は勤め人ではないから自然と家庭主義者ではない。勤め口を待つてゐれば余儀なく家庭を外にして出かけねばならぬ。余儀なくさせられたとき反撥の感情が起る。自然と勤め人諸君は家庭を恋ふる心理へと落されるではないか。しかし私にはその余儀なさがない。その結果私の
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