返事だつたのださうである。保シヨウ。諸君はこのシヨウの字をどう判断する? 新国劇は彼の生活を保障してゐる。生活の保障があるかぎり保証なんぞは要らないぢやないか。あゝ保障は保証であるのだ。さう考へて来ると私はまたあの拓務大蔵といふのを思ひ出す、官吏には身分保障令といふのがある。官吏の方に限り金融などといふのがあるが、法律といふ格子が彼等を保証してゐるのだ。格子づくりの囲ひ者といふが、格子の向うに居る人間ならば安心と考へるのは人情であらう。格子の外にゐる奴等はいつ逃げ出さんとも限らない。あの婆さんが、格子の中から私を見て、横皺縦皺を海草のごとく揺がしたのも謂れなきことではないかもしれない。よしんば私に格子の縁があるにしても、それは原稿紙の角格子である。紙の格子では誰も信用してくれる筈がない。
 とはいへ世は様々なものである。私が以前に借りてゐた大森の家の家主さんなぞは、古風、大古風の部に属してゐたのだらう。率直に私が原稿書きである旨を述べると、では入るときには入るが入らんときには入らん御商売ですなといつた。その通りですと答へると、しかし入るときには入るのだから安心なものですなといつて承知し
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