]ルターから第二の通信が来ました。その全文はかうです。
「トルコ兵は、例の乞食がイギリス軍の前線をくゞつたことを勘づいて、ひどくあやしみ出しました。彼等は乞食が本当につんぼであるかを試すためにその耳のそばで、つゞけさまに銃弾を発射しました。乞食はその銃声も聞えないやうに、ぼんやりと立つてゐました。しかし彼等はなほ不安がつて、彼を野砲の砲身のそばに立たせ、二十発もの実弾を打ちました。そのために彼の鼓膜はやぶれ、耳と鼻から、だら/\と血が流れ出ました。それでも彼は石のやうに、ぎくともしずに直立してゐました。
 これで、つんぼであることだけはトルコ兵にも分りましたが、でも口は聞けるかも分らないと、なほ疑つて、赤熱《しやくねつ》した鉄棒でもつて、彼の肉をこすりました。それから両手の指の生爪をすつかりはぎとりました。彼はそのたびに、ポロ/\と頬へ涙をおとしましたが、しかし、あッといふ叫びも立て得ませんでした。
 トルコ兵はこの罪もない片輪ものに、そんな暴虐をしたことを悔い、神の罰をさけるために、これまでよりもなほ一倍、彼をあはれみ可愛がりました。彼は血のかたまりの腐りついた指をぶら下げて、相かは
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