に思わぬところから火の手がせまって来たりして、せっかくもち出したものもそのままほうってにげ出す間もなく、こんどは、ぎゃくにまっ向《こ》うから火の子がふりかぶさって来《く》るという調子で、あっちへ、こっちへと、いくどもにげにげするうちに、とうとうほりわり[#「ほりわり」に傍点]のところなぞへおいつめられて、仕方なしに泥水《どろみず》の中へとびこむと、その上へ、後《あと》から何十人という人がどんどんおちこんで、下のものはおしつけられておぼれてしまうし、上の方にいた人は黒こげになって、けっきょく一人のこらず死んだような場所もあります。
てんでんにつつみをしょってかけ出した人も、やがて往来が人一ぱいで動きがとれなくなり、仕方なしに荷をほうり出す、むりにせおってつきぬけようとした人も、その背中の荷物へ火の子がとんでもえついたりするので、つまりは同じく空手《からて》のまま、やっとくぐりぬけて来たというのが大方《おおかた》です。気のどくなのは、手近《てぢか》の小さな広場をたよって、坂本《さかもと》、浅草、両国《りょうごく》なぞのような千坪二千坪ばかりの小公園なぞへにげこんだ人たちです。そんな人は、
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