落ちているところへ、どんどん火の子をかぶるのですからたまったものではありません。当夜火の中をくぐってにげて来た人の話によりますと、二十|間《けん》巾《はば》ぐらいの往来でも、片がわが焼けて来て、ほのおが風のようにびゅうと、ひくく地上をはったと見ると、向うがわはもうまっ赤《か》にもえ上るというすさまじさだったそうです。かけ出した各消防署のポンプも、地震で水道の鉄管がこわれて水がまるで出ないので、どうしようにも手のつけようがなく、ところにより、わずかに堀割《ほりわり》やどぶ川の水を利用して、ようやく二十二、三か所ぐらいは消しとめたそうですが、それ以上にはもう力がおよばなかったのです。大きな工場や、工事中のビルヂィングなぞには、地震でがらがらとつぶされて、一どに何百人という人が下じきになり、うめきさけんでいるところへ、たちまち火がまわって来て、一人ものこらず焼け死んだのがいくつもあります。
多くの人々は、大《たい》てい、ソラ火がまわったというので、着《き》のみ着のままにげ出したようです。中には、安全と思うところへ早く家財なぞをもち出して一安神《ひとあんしん》していると、間《ま》もなく、ふい
前へ
次へ
全27ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング