ぎっしりつまったなり出るにも出られず、みんな一しょにむし焼きにあってしまいました。
そんなわけで、なまじっかなところではとてもあぶないので、大部分の人は、とおい山の手の知り合いの家々や、宮城《きゅうじょう》前の広地《ひろち》や、芝、日比谷《ひびや》、上野《うえの》の大公園なぞを目がけてひなん[#「ひなん」に傍点]したのです。平生《へいぜい》はふつうの人のはいれない、離宮や御《ぎょ》えん[#「えん」に傍点]や、宮内省《くないしょう》の一部なども開放されたので、人々はそれらの中へもおしおしになってにげこみました。
にげるについて一ばんじゃまになったのは、いろんなものをはこびかけている、車や馬車や自動車です。多くのところではそれが往来に一ぱいつづきはだかっているので、歩こうにも出ようにもあがきがとれなかったと言います。そんなところでは、ただぎゅうぎゅうおされ/\て、やっと一寸二寸ずつうごいていくだけなので、目ざす広場へつくのに、平生なら二十分でいけるところを、二時間も三時間もかかったと言っていた人があります。ぐずぐずしているうちには後《うしろ》の方の人は見る見るむし焼きになり、横の方から
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