の臀のような色が覗く。茎を掴んで引き抜くと、下に芋が赤く重なってついている。常吉はうしろからぽきぽきとそれをもぎ取って畚《ふご》へ入れる。一と畚溜ればうんと引っ抱えて、畦《くろ》に放した馬の両腹の、網の袋へうつしこむ。馬は畠へ影を投げて笹の葉を喰っている。自分はお長と並んで、畠の隅の蓆の上で煙草を吹かす。双た親は鍬を休めるたびごとには自分の方を向いて話しをする。お長も時々袖を引いて手真似で話す。沖の鳥貝を掻く船を指《ゆびさ》して、どの船も帆を三つずつ横向きにかけている。両端から二本の碇綱《いかりづな》を延しているゆえ、帆に風を孕《はら》んでも船は動かない。帆が張っているから碇綱は弛《ゆる》まぬ。鳥貝は日に干して俵に詰めるのだなどと言う。浪が畠の下の崖に砕《くだ》ける。日向《ひなた》がもくもくと頭の髪に浸みる。
やがて常吉の若い嫁が、赤い馬を引いてやってくる。その馬が豆腐屋のであった。嫁も掘る。自分も掘ってみたいと言ったけれど、着物がよごれるからだめだと言って母親が聞かない。嫁は唄を謡う。母親も小声で謡う。謡えぬお長は俯《う》つ伏《ぶ》して蓆の端を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78
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