千鳥
鈴木三重吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)馬喰《ばくろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)竹|洋灯《ランプ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》っている
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 千鳥の話は馬喰《ばくろう》の娘のお長で始まる。小春の日の夕方、蒼ざめたお長は軒下へ蓆《むしろ》を敷いてしょんぼりと坐っている。干し列べた平茎《ひらぐき》には、もはや糸筋ほどの日影もささぬ。洋服で丘を上《あが》ってきたのは自分である。お長は例の泣きだしそうな目もとで自分を仰ぐ。親指と小指と、そして襷《たすき》がけの真似《まね》は初やがこと。その三人ともみんな留守だと手を振る。頤《あご》で奥を指《ゆびさ》して手枕をするのは何のことか解らない。藁《わら》でたばねた髪の解《ほつ》れは、かき上げてもすぐまた顔に垂れ下る。
 座敷へ上っても、誰も出てくるものがないから勢《はずみ》がない。廊下へ出て、のこのこ離れの方へ行
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