ま》もなく生え続いた中を行く。浪がひたひたと石崖《いしがけ》に当る。ほど経て横手からお長が白馬を曳いて上ってきた。何やら丸い物を運ぶのだと手真似で言って、いっしょに行かぬかと言うのである。自分はついて行く気になる。馬の腹がざわざわと薄の葉を撫《な》でる。
 そこを出ると水天宮の社《やしろ》である。あとで考えると、このへんで引き返しさえしたらよかったのに、自分はいつまでも馬の臀《しり》について、山畠を五つも六つも越えて、とうとお長の行くところまで行ったのであった。谷合いの畠にお長の双《ふ》た親《おや》と兄の常吉がいた。二三寸延びた麦の間の馬鈴薯を掘っていたのである。
「まあ、よう来てくれなんしたいの」と言ってみんなで喜ぶ。爺さんは顔じゅうを皺にして、
「わしらはあんたが往《い》んなんしたあと、いつまでもあんたの事ばかり話していたんぞ」とにこにこする。
「はあ死ぬまで会われんのかいと思うたに」と母親が言う。自分は小さい時の乳母にでも会ったような心持がする。しばらくいろいろの話をする。
 やがて双た親は掘りはじめる。枯れ萎れた茎の根へ、ぐいと一と鍬《くわ》入れて引き起すと、その中にちらりと猿
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