を引きに行ったんですの」
「どの畠へ出てるんですか。――私ちょっと行ってみましょう」
「いいえ、もうただ今お長をやりましたから大騒ぎをして帰っていらっしゃいますわ」
「さっき私は誰もいないのだと思って、一人でずんずんここへ上ってきたんでした」と言って、お長が手枕の真似をしたことを胸に浮べる。女の人は少し頭痛がしたので奥で寝《やす》んでいたところ、お長が裏口へ廻って、障子を叩いて起してくれたのだと言う。
「もう何ともございません」と伏し目になる。起きて着物をちゃんとして出てきたものらしい。ややあって、
「あなたはこの節は少しはおよろしい方でございますか」と聞く。自分の事は何でもすっかり知っているような口ぶりである。
「どうもやっぱり頭がはきはきしません。じつは一年休学することにしたんです」
「そうでございますってね。小母さんは毎日あなたの事ばかり案じていらっしゃるんですよ。今度またこちらへお出でになることになりましてから、どんなにお喜びでしたかしれません。……考えると不思議な御縁ですわね」
「妙なものですね。この夏はどうしたことからでしたか、ふとこちらへ避暑に来る気になったんですが、――
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