ときり歯は、ミスのふくらはぎ[#「ふくらはぎ」に傍点]とおもふあたりへ、がくりとかみつきました。ミスは自尊心を失つて、ひどくあわてさわぎました。スカートをまくし上げて、ラクダのかけ足のやうに、くびのところまですね[#「すね」に傍点]をはね上げました。でもちんは、もつとすばしつこくミスのイギリス製の、じようぶなスカートをくはへました。ですからミスはとび上ることが出来ません。おやといふやうにふりむいたなり、ちようど、かつゑた野獣のきばの下でふう/\息をしてゐる羊のやうに、にらまれながら立ちすくみました。パン屋の人たちは店の入口で腹をかゝへて笑ひました。
と、犬は、きふに足の間にしつぽ[#「しつぽ」に傍点]をはさみ、耳をたれて、一本の足を空へはね上げてキヤン/\なきながらにげ出しました。トゥロットが、ふざけがあんまり永すぎるとおもつて、もつてゐたおもちやのシャベルで、犬の背中を力一ぱい、ごつんとくらはせたからでした。
敵のかげは見えなくなりました。ミスはイギリス人らしい威厳と冷やかさとをとりもどして、トゥロットの手をとりました。ミスの血が静脈の中でめぐりはじめました。トゥロットは言ひまし
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