した。
ほう、だん/\にはげしくつッかゝつて来ます。イギリスの女を食べてしまはうと、腹をきめたのでせう。ミスの頬《ほほ》はまつ青《さを》になりました。たゞ鼻だけが、危険におちいつた船の信号燈のやうに赤くもえたつてゐます。ちんはぐん/\そばへ来て、狂つたやうに、ミスのぐるりをかけまはります。それこそ、日がさでおどかしても、やさしい言葉をかけても、きゝはしません。だいたんにも鼻先で、ミスのスカートをひつかきます。
がつしりしたちん[#「ちん」に傍点]の歯は、ミスのすねの骨ぐみへ、くひつきかけました。ミスはふだんから、わけもなく犬がこはくてたまらない人です。ミスは、今はもう、こめかみをがく/\させ、全身につめたいふるへ[#「ふるへ」に傍点]を走らせました。冷汗《ひやあせ》がかさ/\の背中へじつとりとたまりました。もう、泣かんばかりの顔をして、たすけをさけばうとしてゐます。でもたつた一つ、ミスがイギリス人であるといふ誇りから、なきごゑを出すわけにもいきません。
戸口に立つて、うす笑ひをかくしてゐたパン屋の店のものは、どつとふき出しました。
攻撃は、いよ/\もうれつになりました。ちんのい
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