うしたんでせう。ミスは? あら、何をふざけるのでせう。ほう、とんだり、はねたり狂人娘《きちがひむすめ》のやうに、くる/\まはりをしたりしてゐます。ミスがあんなことをするのは、はじめてです。
 おゝ、ちらりとうしろへ目を向けました。おや、くるりと向きかはつて日がさをふりまはし、をかしな声でさけびながら、あとしざりをしはじめました。
 どうしたんでせう。トゥロットは、しんぱいでたまらなくなりました。


    三

 あゝ、やつとわかつた。パン屋のちん[#「ちん」に傍点]はいやな犬です。あいつは、だれにでも、ウヽ/\うなつてとびかゝります。どうしたわけか、イギリス人の女をひどくきらふやうです。
 そのちん[#「ちん」に傍点]が、今、うなりたけつて、ミスにとびかゝつてゐるのでした。うしろへひきさがつたかとおもふと、なほひどくうなつてとびつき、あと足で立ち上り、つぎには地びたへうづくまつて、きみわるく歯をむき出しました。はゝあ、あの犬をぢやらしたのは、きつと、ミスのふくらはぎ[#「ふくらはぎ」に傍点]です。ミスの靴下です。をかしな犬もゐたものだ。あの犬が、骨をしやぶつてゐるのを、よく見かけま
前へ 次へ
全15ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング