た。
「ミスはずゐぶん勇敢ね。ねえ、ミス。」
ミスは、さう言はれて、トゥロットの顔を、けはしい目をしてねめつけました。わたしのことをばかにしていふのだらうか。いや、さうではないらしい。トゥロットの、きよらかに、すんだ、二つの目には、皮肉なぞはちつともうかんではゐません。ミスは、おもはずからだをこゞめて、トゥロットに頬ずりをしました。
トゥロットは、ほかのことをかんがへてゐたので、ミスが、なぜだしぬけに、頬ずりなんかしたのかといふことを、あまり気にもとめませんでした。
食事のときにお母ちやまがおきゝになりました。
「けさはおもしろかつたの? トゥロット。」
トゥロットはいさみ立つてこたへました。
「ね、お母ちやま、ミスはとても勇敢よ。お母ちやまに見せたかつたよ。そしてね、それからね、あのセル……セルブラスのお話をしてくれたの。ね、あの剛……剛勇? 剛勇なサラセン人はスパルタ人なの。そしてじぶんはランプで片手をやかれたの。でも、片手でもつて橋の上に立つて、艦隊の命令をしたの。そしてね……それからね、あのね……。」
お母ちやまは、そんなお話はおすきでないらしく、
「へえ、えらいのね
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