りで蛇は一ぴきもゐないぢやないか。」とデラポールトは言ひました。
「いえ、蛇もをります。」
ケリムはかう言ひながら、こんどは、先《せん》とはちがつた音色でシッ/\/\とよびたてました。同時に、三人のものは、アラー/\/\と烟をはきながら、タンブーリンをヂャリン/\ポン/\ならしました。
すると、間もなく、デラポールトの寝床のあたりから、ケリムのあいづと同じやうに、シッ/\といふ声がし出しました。と思ふと長さ四尺以上もある蛇が、によこりと寝床の下から出て来て、するすると、ケリムの方へ走りよつて来ました。よく見るとその蛇は、アラビヤ人がタボリックと言つてゐる、コブラ・カベラといふ毒蛇です。ケリムは、そのおそろしい蛇をむぞうさにつかまへて、袋の中へおしこまうとしました。
「おい、ちよつと待つた。」とデラポールトはさへぎりとめました。
「何でございます。」
「はッは、その蛇はほんとにこの家《うち》にゐたのかい。」
「ごらんのとほりです。」
「よろしい。ほんとに私《わたし》のうちにゐたものならば私のものだ。その蛇はおまいの袋なぞへ入れないで、こつちへおくれ。」と、デラポールトは、そばの棚《た
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