来たのは、ぶく/\した黒服に青いづきん[#「づきん」に傍点]をかぶつた、五十ぐらゐの年ぱいの、どことなく威げんのある、しごくまじめさうな男でした。ケリムはデラポールトのまへに出て来ると、胸の上に手の平をくみあはせて、ていねいにおじぎをしました。デラポールトは土地の人とかはらないくらゐ上手にアラビヤ語を話しました。
「いらつしやい。何だかこの家《うち》の中に毒蛇がゐるといふことだがほんとうですかね。」と聞きますとケリムはくびをかしげて、しばらくくん/\鼻をならした後、
「はい、をりますです。」と、しづんだ調子で言ひました。
「へえ? 毒蛇が?」
「はい。」とケリムは、ふたゝび鼻をくん/\言はせて、
「だいぶゐるやうです。少くとも六ぴきはをりますでせう。」
「ほゝう? ではつかまへてくれますか。」
「はい。私がよびますと、わけなく出てまゐります。」
「ふゝん? では、さつそくよび出して見て下さい。」
「はい/\。」とケリムはおじぎをして、ちよつとその部屋を出ていつたと思ひますと、間もなく仲間のものを三人つれてはいつて来て、四人で床の上にあぐらをかきました。そのうちに、ケリムのほかの三人はタ
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