た。坊やのいふことがよくわかつたのでした。


    二

 トゥロットは、しばらくかんがへてゐましたが、しまひにむつかしい問ひをかけました。
「ぢやァ、なぜお家《うち》になんにもなかつたの?」
「とうちやんは、もうからねえんだよ。母ちやんと、小ちやい子は、びようきなんだもの。だから食へねえんだ。」
 ぷふゥ。食へねえんだつて、何て下等な言葉でせう。トゥロットは、げびたうちの子とお話をしてはいけないのでした。だから、ほんとは、もうさつさと、あつちへいつてしまはなければならないのです。だけども、もつと、ちやんとわかるまで聞いて見たくてたまりません。
「なぜ、お父さまは、おいしいものを買つて来いと言ひつけないの?」
「お金がねえんだ。」
「では伝票にすればいゝぢやないの?」
 おうちのばあやは、お金をもたないでも買物をして来ます。そしてお母さまの伝票にかきこみます。
 男の子は、また顔をふつて、手の指の間から砂を流しはじめました。トゥロットは、それこそ、こはくなるくらゐふしぎでした。何のわるいこともしない子に、お母さまが何にも下さらないつてことがあるでせうか。神さまはそれを見て何とおつし
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