ッこみました。
「きみ、なんにももらはなかつたの?」
男の子は、はじめて、うん、といふやうにうなづきました。
「お母さまに、何かちようだいッて、なぜ言はなかつたの?」
「言つた。」
「言つたのに下さらなかつたの?」
「うちには何にもないんだよ。」
あはゝ、それはうそ[#「うそ」に傍点]だ。どこの家《うち》にだつて、お居間にも、廊下や、だいどころのお戸だなにも、おいしいものがどつさりしまつてあるんだもの。この子はうそつきだ。さうでなく、きつと、何かわるいことをしたばつに、お母さまが何にもありませんとおつしやつたのにちがひない。
「きみ、何かとつて食べた、だまつて? おぎようぎがわるかつた? きみのとこへ来る先生をおこらした? でなければ、お話がうまく言へなかつたんだらう? ちがふ? ぢやァ、なぜ、なんにも食べなかつたのさ。――家《うち》になんにもない? そんならおなかゞすいてる? さつき、さういへば、ぼく、パンをすこし上げたんだけど。ぼくは、おなかなんかすいてないんだから。――でももうすつかりたべちやつたんだもの、ね。」
男の子は、だから、もうしかたがないといふやうに、うなづきまし
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