ふゝん、この子の女中は、まいあさこの子を頭から足のさきまでシャボンで洗つたりしないんだから、いゝね。ぼくはいやな目をさせられて損だ。でもぼくは貴族のうちの子で、もう大きな子なんだから、ちやんと洗つてもらはなければいけない。洗はれるのはいやだけれど、きれいになるのはいゝ気もちだのに、この子はなんてぶざまなんだらう。
「ほんとに、きたないね、きみは。」
かういふと、子どもは、ちよいと、目をうつぶせましたが、ぢきまた上げて、へんじもしないで、うすのろのやうににた/\笑ひながら、片方の手で砂をにぎつては、やみまなしに、片方の手の平へうつし/\してゐます。でも、たいしておもしろさうなけはひもなく、目では、じつと、トゥロットが三日月パンをもう少しで食べてしまひかけるのを見つめてゐるのです。
トゥロットはその子の目のおちるところを見て見ました。じいつと見ていくと、その目は、じぶんの三日月パンの上へ来てとまるやうです。あゝ、やつぱりさうだ。三べん同じところへ来るんだもの。まちがひはない。
「きみ、三日月パンがほしい?」
トゥロットはかう言つて、食べかけをみんな口の中へおしこみました。男の子は、
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