上《のぼ》つて、ジャンヌのお手《てて》からチョコレイトを一きれと、三日月パンを一つうけとると、またお山の方へもどつて来ました。立つたまゝ食べるのはおつくうなので、お山をひぢかけいすにしてしまつて、その上へ、どつかとこしをかけて、穴の中へ足を入れこみました。そして、チョコレイトを、ちよつぴりづゝ、かじりはじめました。すこうしづゝかじり/\して、もようみたいにこはしていくのがたのしみなのです。それは、とてもおもしろいのです。
「おや、何だらう。」
 トゥロットのまんまへに、ふいに影がさしました。顔を上げて見ますと、いつの間にか小さな男の子が来てゐます。いやにきたならしい子で、とてもくさくつてたまらなささうな、ぼろ/\の服を着てゐます。顔もまつ黒、両手もまつ黒で、鼻の下のところがへんに赤くなつてゐます。トゥロットはシャベルをふり上げて、
「あつちへおいで。」と、おどしつけました。男の子は片ひぢを目の上へあげて、三足あとすざりをしましたが、そのまゝトゥロットのまん前にすわりこんで、トゥロットの方をじろ/\見てゐます。トゥロットもその子を見つめながら、ちびり/\チョコレイトを食べつゞけました。

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