舌なめずりをしながら、大またにあるいて、ずん/\岩の方へ向つて来ます。トゥロットはこちちから見てゐると、両足がぶる/\ふるへ出して来ました。身も心もちゞみ上るやうです。出来るならにげ出してしまひたいくらゐです。
「あゝァ。」と、もじ/\しながら、トゥロットは両手をポケットにつッこみました。あゝ、いゝことがある。トゥロットはポケットの三日月パンをとり出して、すばやく穴のおくにおしこみました。
 男の子は砂の上にすわりこんで、もぐ/\息もつまるばかりに、ほうばつて食べました。トゥロットはそれをじつと見てゐました。今、じぶんの小さな胃袋は、まい朝のやうにふくらんでゐないのがはつきりわかります。じぶんのあさごはんだつたものが、見る/\きえていくのを見つめてゐると、すこしばかりは、をしくないでもありません。しかし、これでじぶんは、人にかるはずみなことを言つたつぐなひを、ちやんとつけたことになります。それだけは神さまも見て下さるだらうとおもふと、やつぱり、ゆかいでした。
 男の子は、すつかり食べてしまひました。
「パン、おいしかつた?」
「うん。でも神さまがもつて来たんぢやねえぞ。おれ、おめえが穴
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