ました。
 トゥロットは穴の中に手を入れて見ました。それから、のぞいて見ました。そして、ぞくりとして青くなりました。なんにもはいつてはゐません。もう一ど、よくのぞいて見ました。どうしたんでせう。神さまは、きつと、ほかのところへおおきになつたのでせう。
 トゥロットは、そこいら中を見まはしました。ほかの岩の下の穴をものぞいて見ました。でも、どこにもありません。一たいどうしたわけでせう。今にあの男の子が出て来ます。そして何にもみつからなかつたら、それごらん、神さまなんてうそつぱちぢやないかといふにちがひありません。トゥロットのことをだつて、うそつきだといふでせう。それにあの子は、あんなにおなかをすかしてゐるのですから、かはいさうです。
「あゝァ。」
 トゥロットは、かなしさがこみ上げて来ました。神さまは、けさはいそがしかつたのか、それともおわすれになつたのにちがひありません。でなくば、パンがこげてゐたからでせう。おうちでも一どそんなことがありました。だつて、こげたのでもいゝから一つ下さればいゝものを。
 トゥロットは、がつかりしました。
 と、あの子がやつて来ました。にこ/\した顔をして、
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