女は、ふいに涙をながして、一人でかなしそうにすすり泣きはじめました。
 ギンはおどろいて、そっとその肩をたたいて、どうしたのかと聞きました。
「だってあの罪のない赤ん坊は、あんなにからだがひよわいんですもの。あれではせっかく生れて来てもこの世の喜びというものをうけることは出来ません。見ていてごらんなさい。きっと病気で苦しみとおしてなくなってしまいますから。ですがあなたこれで二度|私《あたし》をおぶちになりましたよ。」
 こう言われて、ギンは、しまったと思いました。もうあと一度になりました。もう一度うっかりぶちでもしたら、女はもうそれきり水の中へかえってしまうのです。三人の子どもたちにとってもだいじなお母《かあ》さまなのですから、いかれてしまうと、それこそたいへんでした。
 ギンはそれからは毎日気をつけて、そんなことにならないように、要心《ようじん》していました。
 それから間もなく、ギン夫婦が名つけの祝いによばれていった赤ん坊が、ひどい病気をして死んでしまいました。
 ギン夫婦はそのおとむらいにいきました。そうすると、湖水の女はみんなが泣きかなしんでいるまんまえで、うれしそうにはっはと
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