いい。あすこにいる馬をどれか一ぴきつかまえておおき。私《わたし》はその間《あいだ》に家へいって、手綱《たづな》と鞍《くら》をもって来るから。」と言いました。女は、
「ようございます。それではちゃんとつかまえておきますから、ついでにテイブルの上においてある私の手袋をもって来て下さい。」と言いました。
ギンは急いで引きかえして、鞍と手綱と、手袋とをもって出て来ますと、女は、さっきからそのままじっとそこに立ったきりでいました。ギンは、
「何をぼんやりしているの。早く馬をつかまえてお出《い》でよ。」と、もって来た手袋の先でじょうだんにちょいと肩をたたきました。
「まあ、あなたはこれで一つ私をおぶちになりましたよ。私が何の悪いこともしないのに。」
女はため息をつきながらこう言いました。ギンはこの人をもらったときに約束したことを、すっかり忘れていました。
女は間《ま》もなく馬に乗って、二人で向うの家《うち》へいきました。
それからまたいく年もたってから、二人は或とき、今度は或|家《うち》の名つけの祝いによばれていきました。人々はそれぞれ席について、ゆかいにさかずきを上げました。すると湖水の
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